?
「CM動画?」
がらんどうな部屋に、何とも気の抜けた自分の声が響き渡る。数秒遅れて、目前の親友が告げた内容を反芻し、思わず首を捻った。
近頃、コル君が異世界へ向けての発信を始めた事は知っている。とはいえ、僕からの提案を発端に始まった活動の目標は「存在の周知」ではないし、彼自身に「有名になりたい」という思いがあるわけでもないから、突如飛び出したCMという言葉は少し不思議なように思えたのだ。
「なんでまた……」
「なんでって。ほら、この前リュカが言ってたでしょ? 真相を知るために、第三者の視点から得られるものは少なくないはずだ、って。だったら、なるべく多くの人に見てもらえた方がいいのかなって」
確かに、そんな話をした記憶はあるけれど。そのくらい、僕に言われる前から彼だって気付いていたはずだ。じゃあ、何故今になって突然? スタッフの誰かに勧められたのか? そう、疑問符が頭を埋め尽くしかけた瞬間、呆れ顔と小突きが飛んでくる。
「ちょっと。そんなに深く考えるような事じゃないって! ただ、今までは、どうしたらいいのか悩んでただけだよ」
「何を?」
「宣伝、みたいなことについて。……僕が異世界に向けて発信している理由は、やっぱり、配信で……口頭で伝えた方が分かりやすいでしょ? だから、現時点で明かせる情報が少なすぎるなって、前から思ってて」
実際問題、目的や真相について伏せておく以上、彼が現時点で明かせる情報は、魔法使いであることや、それに纏わる僅かなことに限られるだろう。
発案者たる僕としては、真相を知るため、という目的以上に、彼に息抜きをして欲しかったからこその提案だったのだが……。今更ながら、むしろ負担をかけてしまったのではないか、と思い至る。可能な範囲で手伝いをしていたとはいえ、浅慮だっただろうか。
そんな内心の自問自答も、おそらく見抜かれているのだろう。しかし、彼はあえて笑顔で続けた。まるで、そんな事はないから気にするな、とでも言うかのように。
「まあでも、悩んでたって仕方ないでしょ?」
「うん」
「そうやって、色々考えてた矢先に募集を見かけたから。折角だし、試しに応募してみようかなと思ったんだ」
おばけ君達と撮影しようとは思ってるんだけど、ちょっと案出しを手伝ってくれる? そう言いながら彼お手製の動画制作ノートを広げる様を見て。ああ、どうしようもなく、真面目な人だな、とひとりごちた。
https://youtu.be/DXDwNXKkV-c
0コメント