2023.12.25 13:45? 2幻影通りの早朝。寝ぼけ眼をこすりつつ、大学図書館の扉を開く。勢いよく飛んできた挨拶に返答を返して、俺はカバンから名札を取り出した。魔法大学ことオルタヴォルタ大学には、一般開放されている巨大な図書館が存在する。館内には、図書室と三つの書庫に加え、幾つかの教室や自習室等も収められている、自分にとっては在籍校兼バイト先にあたる場所だ。整った設備と立地の関...
2023.08.06 14:35- 2023年2月25日 - 青年の記憶/セーフルームの彼らオルタヴォルタ大学。学生の学びを深め、魔法使い達を管理する場所。管理、と言うと、やや語弊があるのも事実だが。ともかく、細かな事情を抜きにして語るとすれば、この大学はあくまで……人々にとって重要な役割を担う、僕の職場だ。職場と言っても単なる副業であるからして、ここを頻繁に訪れる事はないのだが、今日だけは事情が違った。おおよそ10年程度の付き...
2023.07.26 14:35- 2022年8月??日 - 青年の記憶/せめて笑顔でさよならを「イスタが、何だって?」午前中の業務も終わり、さて休憩だと殆どのスタッフが去った後。閑散とした室内に自分の声がくっきりと浮かび上がった。イスタ……、僕の妹が、今日ここを訪れるらしい。そう、目前の少年から伝え聞いたのが数分前。それに対し、壊れた機械の如く同じ質問を投げかけてしまったのが今。勿論、断じて、動揺しているわけではない。ダブルチェッ...
2023.05.29 14:35- 2009年4月??日 - 少年の記憶/最初で最後の親友たち用事が長引いた、申し訳ないけど30分遅れる。そんなメールの文面と時計とを交互に眺めているうちに、あっという間に空白は終わりを迎えた。きっかり30分でふっと顔を上げれば、予想通り、彼が大学の門から駆け出して来る。……そんなに急がなくていいのに、と思いつつ、迫りくるその姿へと大きく手を振り、自身の存在を知らせる。多くの魔法使いにとって特に忙し...
2023.04.12 14:35- 2021年10月10日 - 少年の記憶/青い瞳の子どもたち「原初の魔法使いさんって、目が青いんだね」美術館の壁一面に飾られた絵を見て、ふとそんな感想がこぼれ落ちた。目前の大きな肖像画は、整った顔立ちの中でも、瞳がひときわ印象的に描かれているように思う。その目にじっと見下ろされているうちに、思わず、絵画と睨めっこをしているような、不思議な感覚に陥った。隣に立つコル君が、クレイと同じ色だね、と言って...
2023.03.31 14:35- 2021年8月16日 - 少年の記憶/逃げ出すための足先「えっ、クレイ君!?」真っ白な髪が横切りかけて、慌てたように振り向いた。彼にとっては最寄駅らしいこの場所で、ぼくを見つけた水色の目が困惑したように見開かれる。夏休みも終盤とは言え、まだまだ照りつける陽は眩しく暑苦しい。そんな中、過保護な母を連れずに1人きりで座っていたのだから、驚くのも無理は無いと思う。「なんでこんな所に、1人で……? そ...
2022.10.28 14:35- 2021年6月10日 - 少年の記憶放課後になると、みんなが楽しそうに教室を抜け出していく。勿論、自分の席に留まる子も少なくはないけれど、その表情はどれも笑顔ばかりだ。公園で集合な、とか、これから習い事だ、なんて話し声が聞こえて来る陽だまりの中。とりとめもない会話の群れに寄り添ったまま泳いでいたくて、ぼくは椅子から立ち上がれずにいた。1番前の、窓際の席。最前列は不人気だけれ...
2022.09.26 14:35- 2019年??月??日 - 青年の記憶ざぁっ、と勢いよく伸ばされた腕を、前線の魔法使い達が受け流していく。そのうち、後方にまで飛んで来た悪魔の破片を弾き飛ばした少年が、震えるばかりの僕達を気にかけるように振り返った。「大丈夫ですか?」「大丈夫、です。何とか」「……前の方で戦っている、彼らの動きを、よく見ておいて下さいね」戦いの場を初めて目撃するらしい数名が、重たい頭をなんとか...
2022.09.13 04:10?「CM動画?」がらんどうな部屋に、何とも気の抜けた自分の声が響き渡る。数秒遅れて、目前の親友が告げた内容を反芻し、思わず首を捻った。近頃、コル君が異世界へ向けての発信を始めた事は知っている。とはいえ、僕からの提案を発端に始まった活動の目標は「存在の周知」ではないし、彼自身に「有名になりたい」という思いがあるわけでもないから、突如飛び出した...
2022.08.29 14:35- 2012年??月??日 - 通行人の記憶悪魔は単純な存在だ。「混乱に乗じて現れ、ただひたすらに暴れる」といった解説には「諸説ある」と付け加えられつつも、悪魔が単純であるという事実は通説であり、常識でもある。ところが、扱いやすそうな性質とは裏腹に、その腕力は相当なもので、一発でも食らえば命を落としかねない。故に、悪魔と遭遇した時の対処法、なんてタイトルの本は信じるべきではないのだ...